誰もやっていないことを最初にやろう、それがイノベーションを起こす、という謳い文句を、特にテック界隈とか起業界隈ではよく聞く。確かに、誰かがすでに牙城を築いているところに進出しても、特異な付加価値とか独自性がない場合は敗退することになる。トヨタ・GM・ワーゲンなどが占領する自動車業界に新規参入して世界的なポジションを得るには、テスラのEV構想やソフトウェア中心設計、後年のAutopilot・FSDのようなぶっ飛んだコンセプトと実装力が必要だった

ところが、文明史的なプロジェクトたちであっても、いつも「オリジナル」を生産しているわけではなかったりする。筆者はここ1年、Codex、Claude Codeをはじめ、最近はGrok Buildも日常的に触っているのだが、各社の設計がどんどん「似てきている」のを感じずにはいられない。Gemini、Antigravity、Cursor、中国モデルなどはあまり試せていないが、これらもおそらく似た傾向があるのではないか。

例えば、週間の利用上限を自分のタイミングでリセットできるボタン。今年6月ごろにCodexで実装されて、何か不具合とかバグが起こったお詫びとか、ユーザー数が節目の数を突破した記念などでも配られた。それが、8月になってGrokにも搭載され、今ではチャット・Build・Imagineを合算した週間制限を、手持ちの券の数だけリセットできる。

コーディングエージェントのプランモードもそうだ。何かアイデアとかやりたいことをユーザーが入力し、それに対してAIが計画を文書形式で書く。修正点があれば再考、なければ承認して実装モードへ、という動線だ。現在Codex、Claude Code、Grok Buildに同様の機能がある。

プラグインでの外部ツールとの連携は、一番わかりやすいかもしれない。AIのアプリにGoogleカレンダー、Gmail、Driveプラグインを接続すれば、会話するだけで便利にタスクをこなせるようになった。また、モデルによっては、開発者ならSupabaseやNeonのDB、Vercelのホスティング設定、Stripeの決済設定までプラグインを繋いで権限を付与すればAIがRead/Writeしてくれる。ChatGPT、Claude、Grok、Geminiのアプリ全てに搭載済みだ(コネクタ、Connected Apps、MCPなど各社で呼称は違う)。

もちろん、各社の強みや力を入れている点に個性はある。Grok、Gemini(Google Flow系)が画像・動画生成を売りにし、ChatGPTも画像生成を強く持つのに対し、Claudeはコード・長文思考・知的作業寄りという感じだし、検索に統合されているGemini、Xのリアルタイム情報に強いGrokなど、守備範囲も若干違う。けれども、大なり小なり「パクリ合戦」が起きている事態はもう誰も否定できないだろう。

ここでいう「パクリ」は盗用という意味ではなく、他社で有効性が証明された設計を取り込んだり、各社が似た最適解へ収斂したりする現象まで雑に含めている。

イノベーションの最先端でも、実際は自前のアイデアばかりではなく受け売りも多々あるという観測は、意外に興味深い。アイデアそのものの希少性が薄れ、GPU調達力、資金力、配布力、ブランド、運用力、そして原始的なマンパワーの比重が一気に増している感がある。

気をつける必要があるのは、このようにコピーが行われているからといって、誰もやっていないアイデアと、それを形にする行動の有効性が反証されるわけではないことである。Google研究者の執筆したAttention Is All You Need論文、2015年にOpenAIを立ち上げていたイーロンとサム・アルトマン、GPT初期から関わったイリア、GPT-2・GPT-3期を支えたダリオ。。生成AIもLLMも一般語になるはるか前から、奴らは動き始めていた。現在のパクリ合戦は、そのスピード感の中の上位ラウンドで観測されているに過ぎない。

そういえば、AIの波の前にクラウドでも同じようなことがあったことに、ここ数日は思い当たっていた。@icloud.com、@gmail.com、@outlook.comといったメール、FaceTime、Google Meet、Microsoft Teamsと昔のSkypeといったビデオ通話ツール、iCloud、Google Drive、OneDriveといった個人用クラウド、その中の各カレンダー、Todoリスト。Word、PowerPoint、Excel、Pages、Keynote、Numbers、Google Docs、Slides、Spreadsheet。Apple、Google、Microsoftのデジタル3大巨頭もとんでもないパクリ合い(偶然かぶっただけ?)ではないか。

スマホでも、開発者がアプリをApp Store、Play Storeに公開して、それをApple、Googleが審査して、アプリ内課金の一定割合をプラットフォームが徴収するモデルも2社に共通している。合理化を突き詰めていったら自然とその最適解にお互い辿り着いたのか、単に片方が他方をコピーしたのか、どちらだろうか。Apple MapsとGoogle Maps、Apple PayとGoogle Payもあるよな。

これも、誰もデジタルが日常でなかった時代に、ガレージから始まったApple、大学院生の部屋から始まったGoogleが、拡大期に始めた事象であり、初期にはむしろ独創性とアイデアの洪水が必要だったはずだ。

筆者がAI開発競争や、その前のクラウド・スマホ競争をみていて学んだのは、文明史的なイノベーションは必ずしも純粋なアイデア単体でもなく、模倣単体でも当然ないということである。世界レベルのマニアックさ、並外れた想像力と企画力、ブランドに滲み出る個性がないと、黎明期の波を察知して乗っかることはできない。画期的なアイデアは可能な限り取り入れないと、成長拡大期には不利になる。個人の単位にせよ集団の単位にせよ、思考モードを自在に切り替えられるのが鍵なのかもしれない。

* 登場する機能等は全て2026年8月25日時点のものです